ABYSS長編
□5話
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1度強く手を握られたかと思えば、それはすぐに離された。
温もりが離れていく。
(…俺って、こんなに弱かったっけ…)
少なくとも、1人が怖いと思った事はなかった。
あの頃は、1人とは自由という事だと思っていた。
それがどうだ。
今では、こんなに1人が恐ろしい。
(…きっと俺は置いて行かれてしまうんだ)
あの時のように。
皆に『いらない』って言われてしまうんだ。
当たり前だ。
今の俺は目が見えないから剣を使う事もできないし、耳が聞こえないから皆の言う事もきけない。
…こんなの、いらないに決まってるじゃないか。
(俺がいらない事くらい、わかってる。だって俺は劣化品なんだから)
なら、なんでこんなに。
「悲し、い…?」
目から熱いものが流れる。
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