ABYSS長編
□6話
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「私はやはりルークはここに残るべきだと思います」
淡々と、何も感じさせないような声色でジェイドは話す。
「しかしそれではルークを置いて行くという事になりませんか…?」
「だから、そう言っているじゃないですか」
「しかし…!」
「黙りなさい」
顔を歪め、なおも反対しようとするティアの言葉をジェイドが遮る。
「ティア、貴女は今のルークの状況をわかっているんですか?」
赤い眼がティアを射る。
「目が見えず、耳も聞こえない。こんな状態のルークを貴女は魔物の前に立たせるのですか?それはルークに死ね、と言っているようなものだと思いませんか?」
「ちが…っ私は…!」
「ジェイド!いくらなんでも言いすぎです!ティアがそんなつもりで言っていない事くらいわかっているでしょう!」
滅多に声を荒げないイオンが、瞳に怒りを浮かべて叫んだ。
そんなイオンの様子にジェイドは眼鏡を上げる仕種をし、小さく「…わかっています」と呟いた。
「しかし、私の意見はかわりません」
ジェイドの瞳からはある種の決意が見て取れた。
「――じゃあ、俺とはここでお別れだな」
「え…?いきなりどうしたの?ガイ」
皆から少し離れた場所に立っていたガイが1歩前に出る。
「俺はルークの使用人だ。ルークを置いてまでジェイド達に着いて行く理由もない」
「で、でもルークとガイがいないと…」
「アニス。ごめんな」
自然な動きでガイは扉へと歩いて行く。
「アイツには俺が必要だと思うし、なにより俺がアイツを必要としているんだ」
綺麗な笑みを浮かべ、ガイは扉を開けて出て行く。
呼び止める声を遮断するかのように、無慈悲に扉は音をたてて閉まった。
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