テイルズ 

□ふたりぼっちの世界
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神子んび
――――――



視界の端に赤が写った気がしてコレットは足を止めた。


(ゼロス…?)


今は自由時間な為、別段見えたところで不思議な訳ではないが、何故か引っ掛かりを覚えた。

1度そう思ってしまうとどうにも足は進まず、そのまま赤が見えた場所を見つめ続けてしまう。

そして、気がつけば体は向きを変え、さっきまで見つめていた先へと歩き出していた。



目当ての人物は思ったより近くにいた。

小川の辺、何をするでもなくゼロスはただ腰を下ろしていた。

酷く絵になる人だと、コレットは少し声をかけるのを躊躇った。


「…ゼロス!」

「コレットちゃん?」


ゼロスがコレットを振り返る。

絵が壊れてしまったと少し思ったが、ゼロスの声にそんな考えは拡散してしまった。


「なになに、どうしたよ?コレットちゃん」


そう聞かれてすぐには答えられなかった。


「…ゼロスが見えたから?」


そう言えばゼロスは一瞬驚いた顔をした後すぐに笑い、コレットは顔が熱くなったのがわかった。


「さすがコレットちゃん!でももし俺様じゃなかったらどうするつもりだったんだよ?」

「私、ゼロスは間違えないよ?」

「ほら、自分と似てる人は世界に3人はいるって言うくらいだし。いくらコレットちゃんがそう言ってもなぁ」

「うん。でも間違えないよ」


ゼロスは少し苦笑いを零した。

この少女は意外にも強情なのだ。

手で顔にかかる髪を払いのける。


「…そっか。そうだなぁ、まぁ、こんな髪他にはなかなかいないよなぁ。間違えないか」

「そうだね、ゼロスの髪綺麗で好きだよ。でもね、目で見て判断してるって言うより…なんていうか、もっと別の場所で気がついてる気がするの」

「別の場所?」


自然な動作で胸元に置かれた手と同じようにゼロスもそこに手を持って行く。

自分の鼓動を感じるだけで他には何も無い。


「…神子だから、かな?」


しっかりと目を見つめて言われた言葉をゼロスはそのまま受け止めた。


「…そーかもね」


世界に1人しかいなかった神子が2人になって生まれた、不思議な安堵と歪んだ共有意識。

ゼロスはそんなことを思う自分に嘲笑する。


「ゼロス、元気無い?」

「…そんなことないって!俺様はいつも元気いっぱいだぜー?」

「ゼロス」


この目は苦手だと、苦笑する。

攻めるような、諭すような、許すような。


(天使のような)


そんな目が苦手で、羨ましいような気もしていた。


「…ほんっと、コレットちゃんには敵わないな。…ちょっと1人になりたくなっただけだよ」


暗に心配する必要は無いと意味を込めてそう言うと、コレットは笑ってからはゼロスの横に腰を下ろした。


「私ね、ゼロスに初めて会った時のこと、すごくよく覚えてるよ」


天使化していた時もちゃんと意識はあったと話していたことを思い出した。


「神子は私だけじゃなかったんだ、って」


こんなに辛く苦しいのは自分だけではなかった、と。

そう言ったコレットにゼロスは少し目を見張った。

そんなゼロスの様子を見てコレットは苦笑いを零す。


「私はね、本当は皆が思ってるような、望んでいるような人じゃない」


こんな運命を決められて辛い訳がない。

誰かに助けて欲しい。

1人では潰されてしまいそうなほど、それは重く苦しい。


「だから、私ゼロスに会えてすごく嬉しいよ」


不思議な安堵と、歪んだ共有意識。

それはお互いがお互いに感じていたものだった。


「…俺も、コレットちゃんに会えて嬉しいよ」


同じ神子に会えて。


「…だから、私を1人にしないでね。ゼロス」


懇願するような瞳がゼロスを見つめる。

目を逸らすことなど出来なかった。


「…そんな顔しないで、コレットちゃん。1人になんて絶対しないから」

「本当?約束だよ?」

「あぁ、約束。世界に俺ら2人しかいない神子なんだからさ。コレットちゃんを1人になんてさせるかよ」


辛いのも、苦しいのも、全部半分だ、と。

ゼロスが笑うと、コレットもつられたように笑う。

どこか歪んだそれでも、今この瞬間だけは幸せだと思えた。





――END――



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