テイルズ
□ロイゼロ
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吐き出した息が白く染まるほど空気が冷たい。
見上げなくても嫌でも目に入るのは、雪。
今ゼロス達が滞在しているのはメルトキオで、雪が降ることはあるが、その季節の間はゼロスは旅行と表してメルトキオを出ていたので、町に降り積もる雪を見るのは久しぶりだった。
(あの日と似ている)
似ているということは同じではないということはわかっていたが、不思議とその場から動くことが出来なかった。
仲間にはもう置いて行かれてしまっただろう。
それでも、屋敷に帰ると思うと足は縫いつけられたかのように重く感じられた。
こんな日にあの屋敷に帰ったら、今の自分のままではいられない、取り繕ってはいられないような気がしていた。
(早く、行かないと)
不信がられると理解していたので、重い足を地面から無理矢理引きはがし、踏み出そうとした時だった。
水気を含んだ雪が踏み付けられる音が聞こえた。
「――…っ!」
咄嗟に剣を抜いて振り返ると、甲高い金属音が人気の無い道に響いた。
襲いかかってきた男に見覚えは無い。
弾き飛ばして間合いを取る。
「…物騒なモン持ってんな…」
男から返答は無く、無言のまま再び襲いかかってくる。
ゼロスは絶好調とは言い難い自分の体調に舌打ちをした。
おまけに地面は雪で滑りやすい。
とりあえず、打ち倒すことよりも逃げる方法について考えた方がいいだろうと思い、ゼロスは男の剣を避ける。
数回避けた後、少し間合いを取った男に逃げるため踏み出そうとした瞬間、視界が歪んだ。
案の定、足を雪に取られたのだ。
バランスを崩したゼロスに男は剣を振り上げる。
「――ゼロス!」
淡い金色が視界いっぱいに広がったかと思えば、想像していた衝撃とは違う重みが体にもたれ掛かった。
「コ、レット…ちゃん?」
呆然と、もたれ掛かる少女の名前を呼ぶと腕の中で少女はふっと笑って、震える口を動かした。
「ゼロスが無事でよかった」と。
声は出なかったが、確かにそう言った。
ゼロスが何も言えないでいる間、コレットの体がどんどん重く、そして服に赤が滲んでいくのがわかった。
「……ぁ…」
(赤、だ)
その瞬間、コレットを刺してしまったことに動揺したのか動かなかった男が横に吹き飛んだ。
「ゼロス!」
視線を横にやれば他の仲間達が駆け寄って来ていた。
ゼロスはすぐ視線をコレットに戻したため、ロイド達からは表情は窺えなかった。
「いったい何が…!」
リフィルがコレットに駆け寄り回復術を施すが、その間も赤色は雪を染みていく。
「おい、ゼロス…!」
焦ったように状況を把握しようと声を上げたロイドはゼロスに近づき、言葉を失った。
ゼロスの顔は真っ青で、体は震えていた。
「ゼロ…」
「あ、あぁぁぁぁ…!」
がたがたと体を震わすゼロスにロイドは伸ばしかけた手を止めた。
ゼロスの視線の先には苦しそうに息をするコレット。
ついには自分の体を守るように抱いたゼロスにロイドは止めていた手を伸ばして自分の腕の中に引き込んだ。
「大丈夫だ、コレットは絶対死なない…!大丈夫だから…!」
「…ロ、イ…ド……」
小さく名前を呟いて、ゼロスは目を閉じた。
ずしりと重くなった体に、気絶したのか、とどこか遠くで思った。
「ロイド…」
ジーニアスの声にロイドは腕の中のゼロスを抱え直して立ち上がった。
「とにかく、早く2人を休ませられる所へ運ばないと」
「…そうね。とりあえずゼロスの家が近いから、そこにしましょう」
リフィルの言葉で、一行は屋敷へ向かった。
―――−−‐‐
さっきまでは雪にまみれて確かに寒かったはずなのに、何故か不思議な温もりに包まれて目を覚ました。
「…俺の部屋」
ぐるりと見渡すと、そこは馴れ親しんだ自分の部屋だった。
おまけに体はベッドに横たわっていてご丁寧に布団もかけられていた。
「目、覚めたか?」
「ロイドくん…」
意識を失う前、視界に広がっていたのは赤色だけだった。
けれどそれは決して不快な物でも恐ろしいものでも無く、ただ目の前の温かい色だった。
「…あーぁ、恥ずかしいとこ見せちまったな」
いつものようにゼロスが笑うと、ロイドも硬かった表情を崩して少し笑ってゼロスに近づいた。
すぐ横まで来たロイドはゼロスの頭を撫でた。
「ちょ、ロイドくん。俺様一応年上なんだけど…」
「いいんだよ、そんなの。俺がしたいだけなんだから」
悪戯っ子のように笑うロイドにゼロスは何も言えなくなり、そのまま撫でられる。
心地いい温もりに船を漕ぎ始めたゼロスに気づいたのかロイドは声をかける。
「眠いのか?」
「うん…」
「そうか。なら、寝たらいい」
「…うん…」
ロイドはゼロスに何も聞かずに、そのまま頭を撫で続けた。
「いつか、お前から話してくれるのを待ってるから。だから、今はゆっくり休め」
――END――