テイルズ 

□言葉にならなかった言葉
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私には愛している人がいた。
その人と一緒になりたかったし、その人との子が欲しかった。

なのに目の前の子供は、その人の色でも私の色でもなく、ただ憎いあの人の色をしているんだろうか。

私には愛している人がいた。
けれど、一緒にさせられたのは別の人で、望まない子を産まされた。

結婚をさせられたとき、友人も、両親も、周り皆は「よかったね」「羨ましい」と言って私を囃し立てた。
愛してもいない人と結婚させられることがよかった?羨ましい?
周りがどう言っても、それは私の幸せにはなり得なかった。

子を成したときにも言われた。
その子が産まれたときにも言われた。
どれだけ周りが何を言っても私は少しも嬉しいとも、幸せだとも感じなかった。

けれど産まれてきた子を腕に抱いたときは、久しく感じていなかった気持ちになった。
それでも、その子をまっすぐに見つめることは出来なかった。
だって、その子の色は憎いあの人の色だったから。

その色を見ていたくなくて酷く邪険にしていただろうに、それでもその子は健気に私に話しかけて、笑いかけた。
目に写るのはその子の表情ではなく、あの人の色ばかりだったけれど。

雪の中、術が放たれたのが見えた瞬間、体は勝手に動いてその子を庇っていた。
冷たい雪の上に崩れ落ちる感覚と一緒にその子の悲鳴が聞こえた。
顔を見れば、その子は悲痛な顔をして泣いていた。
この子はこんな顔もするのかと、そのとき初めて思った。
初めてはっきりと見えた表情だった。
あの人の色が見えなくなった途端、目の前の非力な子供が酷く愛おしく思えた。

このとき、初めて私は本当の意味でその子の母親になれた気がした。

「お前なんて、産まなければよかった」

そうすれば、貴方は別の生を受けて幸せになれたかもしれない。

両親が死んだ悲劇の神子として、きっとこの子は一生この世界に縛られるのだろう。
今までの私のように、冷えきって、愛し方も愛され方も忘れてしまうだろう。

でも、貴方がこの先どんな運命を辿ったとしても、私は、母は、貴方、を 、あ い し て



その子に伸ばしていた手はぱたりと落ちて、結局、大切なことは伝えられないまま最後の時が来てしまった。





「なにもしてあげられなかったけど、私は確かに貴方を愛していました」




ーーENDーー


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