小説
□かくれんぼ
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「そうか」
黒い人はまた押し黙るように沈黙を保った。
呼吸を整えて、カーテンを開こうかと思ったけれどめんどくさくなってやめた。そういえばまだあのお菓子が残っていた。手が油まみれになる例のあれ。
「何だ?」
「お菓子だよ。食べる?」
黒い人はまだ手から目を反らさない。
「オカシ…ああ、人間が食べる気休めの食事か」
蚊の鳴くような声で呟いたが、聞き捨てなら無い言葉を聞いた気がする。
人間って。
「そういえば君の名前を聞いていなかったよ
「カロンだ」
「へー、カロンさんかー」
「あの子もこんなのを食べていたな。栄養にならない物を好んで食べるというのは人間しかやらない理解不能な行為の一つだな。でもまあ、確かに不味いという訳でもない」
そのカロンさんはそれを食べてくれているようだ。パリパリパリパリ。
うーん、黒い服のカロンって名前の正体不明の人がポテチを食べるって、ものすごく変な感じだ。
「どうした、我に可笑しな物でも付いているのか?」
「変だと思ったからだよ。良く人様の家で堂々とお菓子を食べれるなって」
「己の言葉に嘘を言ってどうする。見た目のギャップに可笑しさを覚えたのだろう。我が菓子を食べるイメージなぞ無かったであろうに」
「いや、失礼かなと思って。あのさ、もし、今カーテンを開けたらどうなるかな?」
微妙な空気だったので話題を変えてみた。別に誰だってお菓子は食べていいんだよ。うん。
「我が作った結界が解けて、外部から現れる大量の消化液で我もろともお前さんは溶けていただろう」
「道連れ!?」
「だからさっき我はすまんと謝った。そして貴様は良いと承諾した。我と関わった時点で貴様も逃げなければならない」
…………………………むむむむ。
なんということだ。
「オッケー」
「良いのか!?」
「僕、言ったことは守らないから」
「そうか………いま、なんと言った?」
僕の家は木造、外の声は筒抜けで、段々と声が近づいたかと女の子の声で「影の人さーん」って聴こえててそれからずーっと聴こえるからわかるんだけれど段々と涙混じりの声になってるんだよね。
(はは、こんなかわいい声の子が消化液なんて出すわけ無いじゃないかははははは!)
きっとこの物騒な服の物騒な名前の物騒な仕草の人が悪者に違いないんだ。
「こういうことだよ!!」
僕は思いっきり遮光カーテンを開いて見せた。
そのとき、ポテチの袋を逆さにして上を向いたカロンと初めて目が合った。