小説
□おん あるふぁ えと おめが (前)
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吹き抜ける風。
香るのは緑。
懐かしい匂い。それは学校でのプールの授業のときのことを思い出すんだ。
夏。この匂いは毎年変わらない。
この匂いだけじゃない。
花の香り、雨の湿った臭い、夜の澄んだ空気、朝の空気だってなんかしらの昔の記憶を運んでくる。
風はいつでも思い出を蘇らせてくれる不思議な不思議な、強いて言えば精霊みたいなものだ。
シルフという名の精霊が思い出まで運んでくれるんだ。
夢を見ていた。
今じゃあり得ないような夢だ。平凡で、極普通な日常のような。
いや、違う。これが日常であるはずが無い。
私にそんな記憶は無い、見たことも無い光景だった。
人が有り得ないくらいに多く居たのだ。
風は悪戯好きで、永遠で、いつまでも存在し続けるのさ。 どうやら過去の記憶を運んでしまったようだ。
においだけで知らぬ記憶を蘇らせるとはどんな所業か、今の世界の風は一味違うらしい。