小説

□かくれんぼ
1ページ/4ページ

ポテトが薄く揚げられたお菓子を食べていたときだった。これって手が油まみれになるから決まって食べたあとは気持ちが悪くなる。そんなとき、ふと窓を見てみると黒い靄(もや)みたいのが見えた。
時は真昼、ビルが立ち並ぶここは高級住宅街…といっても僕が住んでいるここは場違いなほどの木造で外装は蔓でびっしりのボロ家なんだけれど。

(疲れてるのかな?)

一旦目を閉じて、またゆっくりと開いてみたらさっきよりも黒い靄が大きくなっていた。
いびつな丸の形。
どこも影ができようもない空中に。

(黒って死の象徴じゃなかったっけ?)

本能的に知っていた不吉なジンクス。
嫌な予感しかしないそれを隠すように少年は遮光カーテンをさっと閉めた。
薄暗くなる室内。
室温が心持ち下がった気がする。
さっきのことは無かったことに油まみれの手をティッシュで拭いていたとき、また不可解な現象が目に写った。
カーテンが内側から丸く盛り上がっていた。
窓は閉めているから風邪の影響ではない。
少年は固まったが、じわじわと恐怖が増すホラー映画が滅法嫌いだったので意を決してばっとその物を開いて見せた。

(!?)

少年は驚愕した。
黒い布を纏った人がターミ○ーターの如く丸まっていたからだ。
やけに息が荒い。
すると、何かを思い出したかのように間髪いれずに窓辺から床へと飛び込み転がり少年に窓を閉めろと身振りで示した。
その尋常でない気迫に少年は素直に従った。
長い沈黙。
今の気分を言葉に表すとしたら正にかくれんぼで、鬼に見つかる緊張感に似ている。
二者とも息を殺して薄闇の中。

(って僕関係ないし)

すると、黒い人が床に身を縮めたまま問い掛けてきた。何故か自身の掌をじっと見つめたまま。

「お前は一人暮らしか?」

「そうだけど」

「すまんな」

「不法侵入だよ」

「最も気配を消すことができそうな隠れ場所がお前さんのところだったのだ。お詫びなら出来る限りのことなら何でもする」

「要らないよ。不思議な現象に遇っただけでもう満足だから」

さっきの現象といい物騒な黒い衣装といい、おまけにフードで表情が見えないわであからさまに不審者にしか見えないけれど悪さをするそぶりは今のところ見せないし、悪い人じゃないのかもしれない。
黒い人を見ると未だに自身の手を見つめている。その隙にカーテンを少し開いて外を覗いてみることにした。
そのとき。

「お前さんの名前はなんだ」

「!!…ハト」

心臓が止まるかと思った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ