小説

□花 前編
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 お花畑だ。そこでは真っ赤な帽子に真っ赤なワンピースを着た女の子が一人花を摘んでいた。コスモスだった。

「いっぽん、にーほん―さんぼん」

ブチ、ブチ―ブチ

「うふふ。ねえ見て、きれいでしょ。むらさきや白や黄いろ。今日も花かざりと首かざりを作るのよ」

女の子の背には陰が出来ていた。女の子は「見て」と再び言いつつゆっくり立ち上がった。左手には十本程の花を持っていた。

「またかい」
「うん!」と女の子は振り向きざま言った。大きな影だった。

小さな女の子では―否大人でさえ、足、しか見えないだろう―とてもとても大きな影だった。何処から声が出ているのだろう、それが言った。

「花を傷付けては駄目だ。花が泣いている―君にはまだわからないのか?」
「きずつけてなんか無いもん!だって……、こんなにきれいに咲いているもん!」
「泣き声が聞こえないのか?小さい頃から生きていた自分の居場所を失ってしまったのだからな」

それを聞いた途端女の子は花を元の位置に戻し始めた。

「これで良いでしょ?」笑顔で空を見上げた。黒い靄があった。顔だ。

「もう遅い、死んでしまった……。昨日の花も、死んでしまった。君は花を殺したのだ」途端に女の子の顔は歪んだ。幼い女の子には無情な言葉だったろう。

「そんな…。大好きなお花さんを私はずっところし続けてたのね」
声が湿っていた。

と、ついにわんわん泣き出してしまった。

「ヒックヒック、グズヒック。私…お花…さん、すき…なのに」

大きな影は黙ったままだ。すると―。

女の子はまだ泣いたままだ、涙が一滴ぽとりと落ちそれを土が吸った。そこからシュー、と言う音と共に蒸気が発生した!
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