小説

□壊し屋
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 一人の男の子がいた。
 その子には両親がいなく(もともといなかったのか、事故で亡くなったのかはわからないが)いつの間にやら孤児院で育てられていた。
 これはずっと昔、今からずっと昔の時代の話だ。
 この少年は昔から物を壊すのが大好きだった。といっても、まだ一、二才の時は積み木を壊す程度で他の子と何ら変わりはなかった。そして、その後もダンボール箱を潰したり、色々な物を壊したりするのだが、そこまでは子供特有の事なので、大した事ではないちょっとしたいじめっこみたいなものである。しかし、そこから先が違った…。少年は極度の人見知りのため、友達が一人もいなかった。他にも理由はあるが、それは前述した通りである。そのため近寄る子達はいなかった。その少年の回りには綺麗な輪が出来ていた。
大人達にも嫌われていた。
 何故か?
 理由は簡単、この少年は壊し屋だからだ。その上人見知りだから、注意しても無視、無視、無視の一点張りだ。喋る意志はあるのだが言葉が見つからず、ただひたすら“仕事”に取りかかっているだけだ。ここまでは辛うじてまだ普通だ。
でも、これだけじゃない。この少年は、普通の子供達よりも異常に壊す頻度が高いのだ。
 
 食べるときと寝るときを除いて、丸一日壊している。何かしらの作品を作っては壊す。子供の力では壊せないものでもひたすらに叩いて壊そうとする(その度に手にあざが出来るのだが)。食事の時間も彼が食べ終える度にパリンパリンと音が鳴る。
 タチの悪いことに成長する度にものを壊す頻度が増えるから厄介だ。大人達は頭を抱えた。外に出したとしても、泣くどころか庭にある木の枝などをバキボキ折り始めた。庭師が、わーと叫び慌てて少年に駆け寄る始末だ。
 実はこの少年、何故これ程までに物を壊したいという衝動に駆られるのか、自分でも分からないでいた。
 無性に壊したいから壊す、ただそれだけの理由でこんな事をする馬鹿げた人間が他にいるのだろうか…。
 少なくともこの時代にそんな人間はいなかった。
 少年は年々、壊し続けている内にある一つの感情が芽生えた。
 それは【楽しい】だった。壊すのが楽しい。「壊すことの楽しさ事態が唯一の僕の友達だ」と、思ったのだった。
 「壊すことによって他人に迷惑をかけるのは気が引けたけど、無視すれば良いから関係無い」と思っていた。
 この少年は悲しいことに、他人からの「愛情」よりも、遅れながらも自分にとっての「感情」を先に感じてしまったのだった。
 そして少年の初めての感情が「楽しい」だった、と…。
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