小説

□暁の悪魔
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 蝉の鳴き声が喧しい夏の日だった―。聖明日香【ヒジリアスカ】は人のごった返す渋谷の忠犬ハチ公前で、腕時計を見つつぼーっと突っ立ってた。誰かを待っているらしい。聖はTシャツに短パン、スニーカーとラフな服装をしていた。

 突然大きな音がしたので、聖はビクッとし音の聞こえた方をはっと見た。回りにいた人達も何事かと見た。その張本人の中年男は顔を真っ赤にして足早に去って行ったのだった。

「びっくりしたぁ。凄く大きなくしゃみ、もう不意討ちだよ〜、はぁ」

 と聖は胸に手を当てて言った。まだ動機が収まらない。ちらと腕時計を見た。AM11:30だった。

「う〜、まだ三十分もあるよ。どうしよ〜、どうする?」

誰に言っているのだろう、聖は一人ごちた。このむわっとする蒸し暑い中を聖は、あと三十分も待たなければならないのだった。

 辺りは、ギャルやらスーツを着た会社員やら浮浪者やらお洒落に着こなした若者やら中年のおばさん。サンプルを配っているアルバイトの人に、少し目を動かすと帽子で目が隠れている白髪混じりの老人がこっちに向かって歩いて来たりしていた。
 そう、今まさに縁無し帽子を被っている白髪混じりのおじいさんが人ごみをかき分け聖に近づいて来たのだ。最初は気のせいだったと思ったが、既にその距離は三メートルにまで縮まっていた。老人は立ち止まった。

聖はぼーっと目の前の老人。を見つめていた。そして…。
「――うん、大丈夫だよ。何か困ってそうだし…」と聖は一人呟き「おじいさん、聖に何か用ですか?」と言った。

 いつの間にか聖と老人の回りには空間が出来ていた。

―突然!老人がこちらを見て驚いた。

「何だ!!」
一喝に等しい程の勢いであった。質問では無い。拒絶の意味が含まれていた。

「え!?私に用があったんじゃ無いんですか」

「お前なぞ知らぬわ!気安く話し掛けるで無い、馴れ馴れしい奴め……。近頃の若者と来たら……」というお馴染みの台詞を喋りだした。

 聖は老人のお説教を熱心に聞いていたときに気付いたのだが、この老人、着物を来ていた。皺だらけの顔にばかりインパクトが有りすぎて気が付かなかったのだ。
「あの、木陰に行きませんか?さすがに頭が暑くて」と、聖は頭を触りつつ言った。もうすぐ真昼だ、益々暑くなってくる。流石に老人も落ち着いたらしく「そうじゃな」と言った。

――刹那、老人は何かを投げた―用な素振りをした。何か?とも思ってたが、聖もふざけて何かを取った用な素振りをした。

「!?あれ?…あっ!冷たい」聖はふざけたつもりだったが、手にはいつの間にか物体が出現していた。老人はほうと言った。

「素直よのう……。お前の今欲しい物はこれと言うことか」

「何をしたんですか?」聖は市販で売っているカップのかき氷を持っていた。ちゃっかり木のスプーンも付いている。

「いや何、大した事では無い。一寸したお礼じゃ」

「でも、すごいや!」持っている方の手で手を振ったら水しぶきが飛んで顔に付いた。

「うわ!」

 少し溶けかけていた。慌てて蓋を開け食べ始めた。食べながらやっと木陰へ行き、振り向いてぼーっと突っ立っている老人においでおいでと手招きした。 老人が慌ててやって来た時には既に十二時を回っていた…。
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