メガテン

□クドラクの食事【R-15】
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ポタポタと、水の音。

びゅうびゅうと、嵐の音。

マントがはためく。

ポタポタと、ポタポタと、ポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタ。

また、1人、殺してしまった。

やわらかい、皮膚。

あたたかい、体温、あたたかい、血液。

いずれ、冷たくなる。

それは首を切り落とされていた。

首は?

およそ240メートル下のコンクリートにスイカが割れたように四散している。

人気の無い真夜中だ。

それでも、野良猫の騒ぐ声が聞こえてきた。

さて、この砕けた頭部の第一発見者は誰になるのか?

目玉飛び出て脳をぶちまけられたそれは、さぞかし掃除をするのが大変だろうな。

余談だ、視点を戻そうシャンシャンシティビル並みの高さの屋上にいる奴。

銀髪、肩にかかるくらいに伸びたほどよくカールした巻き毛、白く胸元がはだけたシャツに黒いベストとスラックス、裏地が赤い黒マント。

肌は…肌は……いやこれはち…。

バシン!

「虫だ…オレぁぁ虫は苦手なんだ…つ、潰しちまったあぁぁぁぁきっきっきっ汚ねぇぇぇぇぇキョェェェェェ」

服装に似合わぬあわてっぷりだ。

ブーンとうるさい虫を両手で潰したのだ。

「オレのぉぉぉ食事の邪魔をォォォォするなぁァァァァ!」

既に潰れた虫に言っても……。

ちなみに側にいる首なしの死体は立ったままだ。

血液が噴水みたいにピューピューしている。

はっと視線をそちらに移し、断面に口を付けて飲むのだ、そいつは。

血を飲むという行為は正常な人間が見たらおぞましいという感情しか起きないだろう、異常な人間でもおぞましいと思うだろう、つまり、人間はおぞましく思うものなのだ。

そんなこと思わない?と思っていても深層では思っているものなのだ。

ちなみに被害者は女性だ。
胸の膨らみ、腰のくびれ、まぁ、女性的な体つきをしている。

ただ、奇妙なのは、下着姿ということで………(脱がしたか?)

少なくとも側に衣服は落ちてない。

奴にとっては人間を食料としか思っていない。

奴は産まれて物心ついた頃には人間を捨てたのだ。

吸血鬼クドラク、赤い羊膜を付けて産まれたものは宿命的に吸血鬼になってしまう。

そして黒い肌。

南スラヴの民間伝承では吸血鬼は黒い肌をしている。

そして奴もまた黒い…のだが血を顔面に浴びたせいで赤黒く染まっている。

一度【ひとたび】出くわせばホラー映画の女優のような声が出てしまうだろう。

そして……。

「キャアアアアアアアアアアア」

言った側から…。

懐中電灯の光がチラチラと高速で揺れる。

もともと彫りの深いクドラクの顔を見た警備員(男)が悲鳴を上げた。

「……ヒャハ!」

好機と見たのかクドラクは一瞬で間合いを取りそいつの首筋に深々と牙を突き刺した。

「ぎゃああああああああ」

ここで、思うのは…。

「ああああああああ」

どうやってひと噛みで人間の血を1滴残らず…。

「あ……あああ………あん」

吸い尽くす…と言うことに(あん?)尽きるのだが。

血は空気に触れると固まってしまうのだが、多分クドラクの牙に秘密があるのだろうな、きっと、例えば傷口が塞がらずに延々と血が流れ出る作用が働く成分が牙から毒液みたいに出るから、とか。

「もっと…吸って…ください」

「………はぁぁぁぁぁぁ??!き、気持ち悪いィィィィィ!!!」

空を切った。

男性警備員の胸ぐらをグイと掴んだクドラクがゴミのようにそれを“下”に投げ捨てたのだ。

ベシャグシャァァァァァという色んなものが折れたりつぶれたりしたような水の音が10秒後に聞こえた。

「ふにゃあああああ!」

猫よ…。

あらかた血を飲んで満足したのか、クドラクは袖で血をぬぐ……うことはせずに舌でべろべろ口回りにへばりついた血を舐めた。

そろそろ空も白みがかって来た。

それなのに奴はひとつあくびをして、横になってしまった。

傍らに首なし死体を横たわらせて、添い寝しだした!

なんと悪趣味な!

奴は死なない、死んでも雑草のように生き返るのだ。

ある決まった方法で殺されない限り。

仮に恋人ができたとしてもそれはいずれ老い衰え、死んでいく。

だからなのか?

死者を抱くというのは…。

死者は既に死んでいる…。

奴はこの首なし死体に魔術をかけた。

これで丸1日腐らない。

そして…。






3時間後……。

首が無い全裸の女性が発見された。

その身体は桃色に染まり、まるで生きているかのようにみずみずしく輝いて見えた。

断面からは血が流れていないのも奇妙だった。

身体には血が全く付いていない。

男は周囲を見回した。

(ヤっちまうか?)

不意に浮かんだ不純な思考。

嫌悪感よりも欲望が勝った。

はぁはぁはぁ。

はぁはぁはぁ。

そして豊かな胸に指先が触れるか触れないかした時───。

ぞわっと悪寒が走った。

背後に、何か、いる?

と、思った時には首筋に鋭い痛みが走り、ものすごい力で抱きすくめられ、全裸の女性が急速に男の視界から離れていった。

「やぁぁっぱり!男は全裸美女に弱いなァァァァァァァァ!死んでるのにィィィィィ!死ィィィィィんでるのにィィィィィヒヒヒヒヒ!クククククク!」

それが男が聞いた最期の言葉となった……。


END.



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