1章 夢か、現か。
目の前のかけ離れた容姿を持ち合わせてた青年が、私の目の前に立っている。それは、思った以上に現実離れしていてとても今が現実だとは思えなかった。
そんな呆然と見つめるフィンの姿を見てどう思ったのかは定かではないがー……かすかに口元を緩め、そしてこの場にいるものなら例外なくすべて物もが身がすくむであろう怒気をあらわにして、会場を見渡した。そして、誰もが理解しがたい言葉を口にする。
「女神は、もらいうけるぞ。」
その声は容姿と同様に少し低く、そして同時にひどく甘くフィンの耳に響いた。
と同時にパキン……と青年が触れた瞬間拘束具が割れたように崩れ去り、その直後なぜかフワリと体が浮遊感に襲われ目を見開き状況を急いで理解しようとする。
目の前には間近にみても欠点一つない秀麗な顔が広がり、慌てて視線をそらす。だが、背と膝裏には重さ一つ感じることのない腕で支えられていた。
それにようやくフィンは自分が男にまるで王子がお姫様にするかのようにー…横抱きをしていたこの状況を理解する。
そんな状況にひどく慌てた彼女は助けてくれた状況であるのも忘れて身を捩った。
…………が、一向に男は腕を離す素振りを見せない。痺れを切らして、思わず視界をあげてその顔を見るととたんに頬が熱を持ち、それを知られたくなくてまた俯く。
その整った顔はフィン自身を宝物を見るような愛しんだ表情を見せていた。そんな状況に当の本人は全く身に覚えがなくてひどく居心地が悪くなる。
そんなフィンを知ってか知らずか、青年は微笑を漏らし、そして辺りをまた脅しの意味を込めて一瞥してどこかへ足を歩めた。
男が進みだした瞬間、なぜかフィンは突然襲ってくる眠気に戸惑い、重くなる瞼と格闘していたのにもかかわらず、とうとうその意識を手放した。
「ん…………」 浮上してくる意識の中で、これまでにないほど深い眠りについていたのだと知る。 体は今まで感じたことがないくらいに深く沈み、まるで雲の上にいるかのような気分になってまた意識がまどろむ。 「……………」 思い瞼を開けた時に、突然差し込んだ光にとっさにまた目を閉じる。すると、なぜか光が"何か"に遮られて疑問に思い、ソロリと瞼を開けるとそこには…… 「起きたか?」 「ッッ、」 声にならない悲鳴を上げながら、あまりに唐突なことに体が硬直する。 「…………どうした?」 目を見開いたまま凝視するフィンを見て、眉根を寄せながら"何か"が問う。 視界いっぱいに広がっていたのは、光をさえぎる"何か"であり、そして私を助けてくれた美麗の青年だった。 だが、その整いすぎた顔はフィンにとっては逆に戸惑いの原因であり、心臓に悪くて苦手だった。 「……」 口を開こうとしない……実際には開けない、のだが。そんなフィンを見てどう思ったのか、眉をひそめたまま顔を離す。 「あ、あの………」 傷つけたのか、とあわてて口に出せば帰ってきたのは意外な言葉だった。 「今、食事を用意しているからもう少し待ってろ。」 「あ………」 ありがとうございます、そう言おうとして思い上半身を持ち上げると思わず口をつぐんだ。 …………す、すごい。。 高級ベッドの代名詞である天蓋付きのベッドではないが、"それ"に乗っているフィンは明らかにそんなものよりも遥かに上だと、なぜか思った。 見渡せば、ベッドを中心に置いてある家具をみて寝室なのかと思うが、それにしては部屋が異様に広かった。…………私が寝泊まりしていた倉庫とどっちが広いかな。なんて外れたことを考えていると、不意にノック音が部屋内を響く。
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