1/1 AM0:00



プラント・アプリリウスの中心に、盛大な花火が上がる
毎年、新年を迎えると同時に空を埋め尽くす無数の華は
街中に溢れる人々の目を虜にし、新しい年の始まりを祝福する

小さいながらも断続的に聞こえてくる祝砲のような音は、室内で仕事中の人間の作業を止めるには十分だった
年明けの合図がなければきっと、日付が変わるのにも気づかなかっただろう
だが見ることは許されず、ただ耳で楽しむことしかできない


それを不服に思う人間が、ここにも一人


「あーあ、明けちゃった。つーかさぁ…なんでこんな日に仕事なんだよ?」

「仕方ないだろう、上が決めたことなんだからな」


オレたちは昨晩から、首都にある基地内で今年1年の報告書作成やデータ処理というなんとも地味な作業を黙々とこなしている
通常であれば一兵卒の仕事だが、年末年始くらいはそういった者たちに休みを与え
家族と共に過ごさせてやるべきだ、と上層部が配慮したらしい
その分のツケが、管理職であるオレたちにまわってきただけのこと
ディアッカの不満はわからないでもないが、軍という組織の中にいる以上は命令に異議を唱えても意味が無い

しかしディアッカは、いまだに片肘を付いてオレのほうを恨めしく見ている
その表情は消化しきれない不満を滲ませ、まるでオレのせいとでも言いたげだ

まぁ…確かに
年内に仕事を終わらせることができなかったのは、オレの管理が甘かったということだが
上層部の判断には賛成だったから、オレとしては自分で自分のツケを払えて好都合だ
副官であるディアッカには強制的に手伝わせていることになるが、それも隊長命令だ
文句は言わせない


「おい、手を動かせ」

「はいはーい」


面倒くさそうな返事
まったく、コイツはオレの部下という自覚があるのだろうか


「…第一、新年だからといっていちいち盛り上がる奴の気が知れん」

「そお?オレの理想としては、花火の見える部屋でシャンパンでも傾けながら、イザークと甘い夜を過ごしたかったんだけど」

「生憎だな。オレはそんなのはご免だ」

「つれないなぁ〜」


そんな会話の中でも、かすかに聞こえてくる花火の音
ふてくされたディアッカの顔が、ますます曇る


「はぁ…花火、見たい」

「子供か、貴様は」

「今抜け出せば、ちょっとだけでも見れるよ」


新年の花火があがる時間は15分間
思いがけない誘惑に、ついキーボードを叩いていた指を止める

ディアッカの言う『理想の過ごし方』には同意できないが
花火は、嫌いじゃない


いや、本当は
ずっと見たいと思っていた
気恥ずかしくて、言い出せなかっただけで
それに、さすがに仕事中では無理だと思っていたし


何気ないディアッカの言葉に、思いのほか心が揺れ動く


「仕方ない。どこで見るんだ?」


オレは表情を隠したまま、至って冷静に聞き返した
そんな言葉を予想していなかったらしいディアッカは、みるみる顔の筋肉を緩めていく


「え、いいの?」

「見たいんだろ?早くしないと終わってしまうぞ」

「あ、だよな!えっと…やっぱ、屋上かな」

「任務以外では立ち入り禁止だ。そもそも鍵が無い」

「そっか…でもさ、とりあえず行くだけ行ってみようぜ?ダメだったらその辺の窓から見れればいいから」


そう言うと、ディアッカは座っていたオレの腕を引いて立ち上がらせた


「おいっ…」

「早く早く!!」


足早に部屋を出て、オレの腕を引いたまま迷い無く進む
その後姿が、なんだか可笑しかった
いつもは余裕ぶっているディアッカが、たまに見せる子供のような行動
呆れつつも、つい笑みが零れてしまう


どうやらオレは、思った以上に
こういうディアッカに弱いらしい


「…階段でいい?」

「は…?エレベーターでいいだろう。わざわざ疲れるようなことをする必要は無いと思うが」

「だって…手、離したくないし」


そう言って、褐色の手をオレの腕から掌へと移動させる




こんな時はいつも、返答に困る





だから、聞こえないフリをした




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